実質的に合意した日本とメキシコの自由貿易協定。その交渉のプロセスは、農産品分野での関税撤廃を迫るメキシコ側と、鉄工業品分野の関税撤廃を求める日本側との駆け引きであった。当初、農水省は、メキシコの本丸は豚肉だと想定し、ある程度の譲歩案を持ってのぞんだ。しかし、メキシコ側は、一転し、オレンジを主軸としての交渉に切り替え、一方、日本側は、農水・経産・外務の3省庁間での意見未調整を露呈し、その他の農産品分野でも一定の譲歩を引き出す結果となった。
 その背景には、鐵工・自動車・家電等を中心とした財界が、強くメキシコの関税撤廃をのぞんでいるという財界の意志が強く反映され、農産品分野と引き換えに鉄工業製品の利を取った形となった。結果から言うと、メキシコに見事に足もとを見透かされた形となったのである。尚、FTA実質合意を受けて、今後の経済効果は4000億円と試算されている。
 メキシコとのFTA交渉を受け、日本経団連は、政府に「経済連携戦略本部」の設置と「経済連携特命担当相」の新設を求める緊急提言を行った。今後、タイ、フィリピン、マレーシア等のアジア各国との交渉を予定しており、更なる農業分野での関税撤廃を求められる日本政府は、国内の利益調整を再考せざる得ない状況である。
 私は、各国とのFTA締結の動きには総論賛成である。その理由は、国益の総和が拡充すること、また、資本主義社会における具体的な根拠の裏付けがない関税への国際圧力は加速することは必死であり、資本主義経済である以上、無原則に拒むことは論理上不可能。
 さりながら、今後も農業製品分野に集中していく関税撤廃の動きには警戒感があるのも事実である。今回の交渉でも、メキシコが日本に輸出実績がない牛肉、鶏肉、オレンジでの低関税の輸入枠が設けられたことに対しての、国内生産者に対する政府側の説明が乏しいのではないかと感じるし、自給率向上、並びに、食の安全の観点からの地産地消を進める動きとの整合性が取れていない。
 FTA締結は、日本としての全体利益の追求そのものである。その一方で、国内政策において、農製品分野における保護政策を続け、価格という点での国際競争力を弱体化させた責任がある。
 政府が全体利益を追求する中で、ある程度の部分利益を妥協することは自然なのかもしれないが、数十年続けてきた政策の転換を行う訳であるから、最低限、各国とFTA交渉を行う中で、日本として守るべきことは何であり、妥協することが何であるのかを説明する責任がある。
 国として全体利益を守る中での、部分利益関係者への説明は必要であり、且つ、全体利益を希求するための、部分利益に対する時限的政策も必要なのではないだろうか。