ビジネスの現場を眺めていて、この国には幾つかの先入観があるのではないかということに気づきました。大きく言うと二つ。一つは、“成長性”、そして、“継続性”です。企業経営の場面、中でも、国際的に事業展開をしているメガ企業を語る場合において、この二つは殊更に重んじられるような気がします。そして、その“”が“効率性”に求められている…

 そのことは普遍的に正しいことなのだろうか?
 素朴にそんなことを考えてみると、国際企業・上場企業ならともかく、ドメスティックな非上場中小企業に限って言えば、必ずしもそうでは無いと思います。

 “経営の神様”と称されるような経営者がいた企業は、概ね、前者に該当し、創業オーナーは“カリスマ”として讃えられ、「成功することは(企業規模が)成長すること」という方程式が大体成り立っているような気がします。

 しかし、冷静に考えてみて下さい

 確かに、全国の全ての企業が、将来のTOYOTA、あるいは、松下になる可能性が無い訳では無いものの、企業数と企業規模(売上高・時価総額)を座標軸に取ったグラフを書くと、限りなくゼロに近い。“確率”でみるとほぼゼロです。

 誤解を招かないようにお断りするならば、決して、国際的にチャレンジすることを諦めるべきということを主張したい訳ではなく、チャレンジ出来る立場の企業も、現実的には限られているということを理解すべきだということを正しく認識するべきだと思います。

 ベンチャー企業を経験して、市場から「魅力的」に見えることに主眼を置き、根拠(実体)の無い“成長性”の幻影(売上総額・時価総額幻影)に取り付かれている会社を幾つも見てきました。無論、志向性は好き好きなので、そのこと自体は否定しませんが、そもそも論に立ち返って、「上場を目指す理由」を聞かれたときに、答えられない企業が多いのも、この国の新興市場の現実です。勿論、そうではない会社もたくさんあります。

 上場を目指すかどうかは別にしても、勝負する土俵と、少しのタイミングを見誤らなければ、数年で数億円規模の会社に育て上げることは、然程、難しいことではない。現存する会社数から一兆円企業を目指す“確率”と比べると、その“確率”は格段と高くなることは揺ぎ無い事実。

 ベンチャー企業の成功例、例えば、ソフトバンクを考えてみて下さい。あれだけ、爆発的な成長力を見せたにも関わらず、目ぼしい海外の業績は然程無い。実は、90年代後半、ベンチャーブームが始まったとき、いわゆるオールドエコノミーや国際的に通用するような一部コンテンツ産業を除いては、既に、“成長性”の幻影から解き放たれているのではないでしょうか。

 つまり、ある一面においては、「規模の経済性」という重石が取れているという現実がある。即ち、“効率性”に解を見出すことは、大企業の“KAIZEN”活動においては重要であるものの、マクロな企業戦略から考えていると、優先順位が落ちているのではないかと感じます。

 前述のように、数億円規模の会社にすることは然程難しいことではない。さりながら、ことベンチャー企業に限って言えば、幾つかの越えるのが難しい“壁”があるような気がします。最初の壁は、10〜20億円、次の壁は、100億円。大体、この二つの壁を越えられるのかどうかが、こと、上場企業(または上場を目指す企業)の分水嶺になっているのではないでしょうか。

 さて、話が、ベンチャー企業、上場企業(または上場を目指す企業)に拠ってしまいましたが、国内の多くの企業(約99%の企業)の場合、株式上場とは無縁のところで事業展開を行っています。にもかかわらず、著名経営者の経営論に触発され、大企業と同じような“成長”を希求する動きは、正直、理解できない

 上場に関係の無い立場だとするならば、“成長性”という価値観で勝負し「拡大を続けながら効率化をはかる」という大多数が凌ぎを削っている土俵で勝負をかけるのではなく、コツコツと数億円規模の会社を一つでも多く作る“確率”の土俵にエネルギーを割くという選択肢を取ることの方が賢明な判断ではないかと考えます。

 そして、会社を作る度に、最低でも一人、全てを任せることができる次のトップ候補を育てる。多分、これが“確率”の土俵で勝負する際の肝となります。

 もし、私に20年間という時間が与えられるならば、20億円の会社を作るのではなく、ユニークなサービスや技術を持った2億円の会社を10社作ることにエネルギーを注ぎます。その方が、ポートフォリオ上も安定しますし、中長期的な総和で見ると、全体のパイも大きくなるのではないでしょうか。何よりも、10人の経営者の頭脳を使うことが魅力的です。

 「俺が俺が…」と「故郷に錦」が日本人の特徴なのかもしれないですが、自分が全てにおいて他の人より秀でていることなど有り得ない。だとするならば、「自分よりも出来る人に全て任せる」「日本が飽和しているなら海外でトライする」、その方が、中長期的視野に立てば、余程、確率論的には正しい選択ではないかと思います。

 上手く表現できなかったですが、一部の大企業を除いては、“効率”よりも“確率”で勝負することの方が利に適っているのではないかと思い、お恥ずかしながら拙文をしたためました。