再上京してから、多くのエコノミスト・アナリスト・研究員・調査員の人たちとお会いしました。往々にして、データを元にした分析力には納得させられることが多いものの、時折、私自身が肌感で受け止めたこととズレを感じることがあります。無論、私自身、さまざまな分析・調査などを行う際、各種の経済指標・経営指標に基づくのは勿論のことながら、最終的には、私自身の感性や嗅覚みたいなものを大事にするようにしています。
 前述のご職業の方は、何かの事象を説明する際、横軸に時間軸、縦軸に経済(経営)指標を用いて状況を紐解く、あるいは、縦軸横軸に経済(経営)指標を用いてマトリクスで紐解く場合が大半です。無論、それらの分析は、概して、妥当であることが多いと思いますが、時折、指標として数量化し辛い大事なことを見過ごすという欠点があるような気がします。

 例えば、頻繁に目にする図表として、横軸に時間軸、縦軸に売上高(利益)などを表すことがあります。昨今では、ようやく、右肩上がりが全てではないという雰囲気が出てきたものの、それでもなお、重要視されることには変わりがありません。また、この手の図表で言えば、成長の角度はともかく、右肩上がり成長さえ続けていれば、基本的には、良い状況(企業)だと判断される傾向があります。

 しかし、本当にそうなのでしょうか?

 例えば、今、話題のライブドア社、偽装前後の数字を問わず、概して、“右肩上がり(成長性)”という切り口では、それ相応の素晴らしいグラフになると思われます。さりながら、縦軸・横軸の他に、もう一つ奥行き軸を取って見たとき、3次元で描く同社の姿(体積)は、今までとは異なった結果を何かしら導き出すような気がします。つまり、2次元的な図表ではなく、体積という3次元的思考の重要性を主張したいと思います。

 個人的には、この奥行き軸には、できるだけ数量化し辛い、経済(経営)指標とは異なる感覚的・抽象的な要素を用いた方が面白いと考えています。例えば、同社を例にとると、本業(IT)との距離感(乖離)、社員の帰属意識、コンプライアンス意識、若手社員のやる気、愛社精神、ワクワク感・・・etc.この奥行き軸の取り方こそセンスであり、洞察力なのではないかと考えます。

 同社の場合、何をして本業と言うかという議論は存在しますが、仮に“本業(=IT)との距離感”という奥行き軸を取ったら、一見、右肩上がりに見えるグラフも、上から眺めると大きくITからファイナンスに急カーブを描いて見える筈です。たとえ、指標上、右肩上がり成長を続けていたとしても、3次元に表現される同社の体積から、少なくとも、状況が大きく変化していることは紐解けるのではないでしょうか。

 しかし、3次元思考で見たとき、結果として表現された体積の形をどう受け止めるのかは受け手の感覚によります。同時に、コレという絶対的な決め手となる指標も無いだけに、抽象論の域を脱しきれない一面もあります。さりとて、この3次元思考、私たち人類が取り敢えず3次元の世界で生きていることを勘案すると、寧ろ、当然と言えば当然の考え方だと思います。(※相対性理論などの考え方もありますので3次元が絶対ではないと思います。)

 また、的確な状況分析を行うことと、的確な問題解決の手段を講じることは必ずしも一致しないので、少なくとも、パラダイムチェンジ、視点を変えるという一つのキッカケにはなるのではないでしょうか。以前、「幸せの体積」という拙文で綴ったように、固定概念に捕われた生き方(考え方)をするより、3次元思考、幸せの体積思考でモノを捉えた方が、視野が広がり気が楽になることだけは言えるのではないかと考えます。


ご参考 2006年3月5日「幸せの体積