fuji 私は、これからのわが国の外交は、好むと好まざるに関わらず、第一に、アメリカと中国という両大国の支点として、両大国のバランスをとることが主務であると考えます。更には、アメリカやイスラム教国家の緩衝材、あるいは、平和的な紛争の解決に向けた橋渡し(平和的交渉の場の提供・主導)を行うことが二つ目の役割だと考えます。以上二点の役割を担うために、組織としては不完全でありながらも、多国間協調の話し合いによる解決の場である国連において、主導的な役割を果たすべく、安全保障理事国入りを強く推進すると同時に、国連改革の旗振り役を果たすことが、わが国外交にかけられている責務であると考えます。
1.北朝鮮関係

 今、わが国が直面している外交課題は、一に、北朝鮮問題、二に、中台問題です。中でも、前者は、拉致被害者及びそのご家族の方々の心中を察しますと、痛恨の極みであります。さりながら、現在の、政党間、あるいは、政党内の論調として、即座に経済制裁という手段を取ることは、外交において武力という選択肢を持ちえていない以上、理想でありながらも現実的ではないような気が致しております。あくまで最後のカードとして温存しておくべきです。そこで、現実的手段として、現行法において可能な限りの対北取締を強化し(送金・輸出入物資の検査強化等を行い実質的な経済制裁を行った)たうえで、政治・外交の表舞台における交渉を一時中断することが懸命な手段なのではないかと考えます。何故ならば、今、メディア等を中心に溢れている北朝鮮に関する情報が、実際のわが国の外交全体に占める割合からすれば過度なものであり、その情報過多の現状に基づく世論の動向を見極めながらの外交交渉は、カードを見せながらババ抜きをしていることに等しいからです。

 そもそも、日朝関係を回復するという必要性は、日本よりも北朝鮮の側が格段に高いということを見失っていると思います。ですから、北朝鮮国内における一般国民の非人道的生活状況等の道義的問題には、わが国としては、赤十字や国連等の国際関係機関を通して関与するに止まり、国交回復の玄関口を北朝鮮側が、自ら礼を尽くしてノックするまでは、二国間、あるいは、6カ国交渉は凍結し、放置するという選択肢があるのではないかと考えます。実は、北朝鮮側が最も嫌う日本側の対応は、経済制裁を別にすると、北朝鮮との対話を一時中断することだと思います。

 一見、拉致問題で交渉カードを小出しにしてくる北朝鮮に分があるようにも見受けられますが、北朝鮮内部の軍部・特務機関と朝鮮労働党幹部との微妙な確執が現存する限りにおいては、更なるカード、つまり、拉致被害者の帰国、あるいは、(北朝鮮発表によるところの)死亡者の的確な(日本側が納得する)情報の開示という選択は、北側は取れないのではないでしょうか。より正確に言うならば、最早、北朝鮮には、日朝交渉に戦略を持って臨む体制も余力もないと考えます。ですから、最善の策は放置だと考えます。

 トランプに例えると、現在の日朝交渉において、北朝鮮側がちらつかせているカードは、(キングやクィーン等の)絵札ではないこと、しかも数字の低いカードであることを冷静に受け止めるべきです。更に言えば、スペードのエースもジョーカーも持ちえていない。単に、2のワンペアで張ったりを噛ましているだけ。また、交渉に窮すると、単に、北朝鮮は、ポーカーをしながら突如七並べをしているかのように、理不尽に豹変しているだけです。ですから、わが国は毅然として、一回パスする。そのことが最も効果的な現実路線であると考えます。交渉ごとは、頭を下げられてから話を聞くというのが王道なのではないでしょうか。


2.中台問題

 次に、中台問題です。個人的には、この問題のほうが、過去の日本国内の議論の経緯から、比較的イデオロギカルなものをベースとしているので、単純な二択という選択肢ではないと考えます。日本国内において、台湾支持派は今まで両国において培われた台湾との信頼関係に重きをおき、筋論を主張します。台湾が民主国家であることからも政治的には正道なのかもしれません。一方、中国支持派は、更に長期的(歴史的)な両国の関係、更に、一国二制度を取り経済的発展が目覚ましい中国の市場性を重要視する傾向があります。いわゆる財界などには、一部業種(正面から中国と競合する業種)を除き、経済に主軸をおいた思考が主流なのではないかと思います。さりながら、靖国問題などに起因する感情的対立が障壁となっています。とは言え、日中の貿易額等は順調に推移していますので、中国側とて、一切の交流を断絶するということは現実としてありえないということを前提にすべきです。

 この中台問題における私の主張は、「二択の議論ではない」ということです。正直、私自身は、感情的には、台湾により好感を抱いていることは事実ですが、一方で、市場としての中国を否定できないのもまた事実です。私は、予てから、2008年の北京オリンピックまでの中国の動きを分析する必要性を説いて参りましたが、2008年であるかどうかは別にして、1.胡錦涛氏が(上海人脈に代表される)従来の後ろ盾(一義的には、江沢民)から自立する時期、そのうえで、2.胡錦涛氏の外交・内政の独自性がでる時期、更には、3.中国の経済発展の本質(負の側面)が顕在化する(成長率の鈍化・公害問題・海外からの投資における制度リスク・農産物、エネルギー、単純製品等の輸入への転換等)時期、この三つのターニングポイントでの中国のアクションを、ある程度分析するまでは、迂闊に中国よりのスタンスを取るべきではないと考えています。

 少なくとも、4年後の米国大統領選挙までは、現状の国際政治においては、中国・台湾・アメリカ・日本・ヨーロッパ等の利害関係者が、ある種の均衡関係にあり、当事者間での情報戦を繰り返しているに過ぎない。また、台湾国内においても総統と議会のパワーバランスが取れているので、仮に、4月の全人代で「反国家分裂法」が成立したとしても、即座に、有事には至らないと考えています。寧ろ、ここ最近の中台間の緊張関係の増徴の結果、最先端の軍事輸出国が潤う中台問題に少なからぬ発言権を持つアメリカは、いずれか(具体的には、台湾)を支援する素振りは見せても、軍事行使することはないと考えます。つまり、この二国間の緊張関係において、アメリカがどちらかを支援する大義も、永続的な利益も存在しない以上、緊張関係を持続させることがアメリカに取ってベストな選択なのではないのでしょうか。逆に言うならば、仮に、中台間の紛争が起こったとしても、日本が武力で介入するという選択肢がない以上、現状では、中台両国に対しては様子見というのが事前の策なのではないかと考えます。

 また、国内の政治状況を鑑みて、小泉政権は、自民党内の規約を改正する、あるいは、憲法改正して首相公選制や大統領制にでもならない限り、2006年が最長な訳ですから、中国と懸案になっている靖国問題を時期尚早に安易な対応を取ることなく、経済主導型で二国間関係を継続していけばいいのではないかと考えます。その二年後の時のためにも、中国を取り巻く諸外国、東南アジア、インド、西アジア、ロシアとの信頼関係を高めていくべきです。中でも、インドやロシアとの政治・経済両輪での外交を展開しておくべきだと考えます。

 話が横道に逸れましたが、日本が言動を行うのは、中国が経済的に躓(つまづ)いたとき。それまでは、中台双方との関係強化を、これまでと同様に淡々と務めることが懸命だと考えます。外交においても、一時的に、動かない、関与しないという選択肢があってもいいと思います。

以上、直面する課題には、多国間の場においては積極的に行事役を担い、二国間の場においては達観して一歩引く。このことが、日本外交のプレゼンスとポテンシャルを最大限に発揮することだと考えています。